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第16話  

湖城。

 雲湖大学の女子寮。

 「うわー…美咲、この人、誰?すごいお金持ちじゃん!」

 「また、美咲に片思いしてる先輩じゃないの?」

 「そうよ、そうよ。周藤先輩よりずっと太っ腹だわ。あの周藤先輩、美咲のこと好きだって言ってたのに、美咲のライブ配信ルームID教えたのに、20万円ちょっとしか貢いでくれなかった。さっきも、10個ちょっとスーパードリームロケットを贈っただけで、もう諦めちゃったし。この小さなマッチ棒って先輩、すごい気前がいいわね!」

 山下美咲は、訳が分からなかった。小さなマッチ棒という人物は全く知らないのに、いきなり200万円以上もギフトを贈ってくれたのだ。

 彼女がライブ配信を始めたのは、まだそれほど前のことではない。視聴者のほとんどは学校の友人たちで、その多くはクラスメイトだった。周藤東は、美咲の1つ上の先輩で、彼女のライブ配信ルームのランキング1位になっており、彼女にアプローチしていた。

 「ねえ、みんな、この人、友達に追加した方がいいかな?」美咲は尋ねた。

 配信者は、お金持ちの視聴者を繋ぎとめるため、彼らを友達に追加することが多かった。そして、そのお金持ちから、次々にギフトを贈ってもらったのだ。

 中には、お金持ちを繋ぎ止めるために、自ら会って、体を許してしまう配信者もいたという噂もあった。

 「美咲、まだ放っておきなさい。たった200万円ちょっとよ。美咲はそんな安っぽい女じゃないわ。もし、美咲に気があるなら、きっと学校で声をかけてくるわよ」

 森岡翔は、200万円以上貢いだところで手を止めた。お金を惜しんだわけではなく、この従妹に数百億、数千億貢いだとしても、彼は痛くも痒くもなかった。しかし、あまりにも多く貢ぎすぎると、美咲を怖がらせてしまうかもしれないと思ったのだ。

 ゴールデンウィークに湖城に行ってから考えよう。

 森岡翔はギフトを贈ると、自分の正体を明かさずにライブ配信ルームから退出した。そして、クジラライブを適当に見て回り、好みのタイプの配信者を見つけると、そのルームに入り、スーパードリームロケットを66個プレゼントした。

 1時間も見て回ると、すでに10回以上もギフトを贈り、2000万円以上使ってしまった。ニュースにも何度も取り上げられ、小さなマッチ棒という森岡翔のIDは、クジラライブでちょっとした話題になっていた。

 多くの小規模配信者は、この大金持ちが自分のライブ配信ルームに来てくれることを願っていた。来てくれれば、いきなり66個のスーパードリームロケットを贈ってくれるし、視聴者も増えるからだ。

 1時間以上もライブ配信を見て回り、そろそろ寝ようかと思った時、森岡翔はパソコンの右上にエリアという文字があることに気づいた。

 森岡翔はそれをクリックすると、画面が切り替わった。

 「位置情報を取得しています。しばらくお待ちください…」と表示される。

 10秒も経たないうちに、新しいライブ配信ルームの一覧が表示された。これらのルームは、森岡翔の現在地に近い配信者たちのルームのようだ。江城内の配信者も多いかもしれない。

 森岡翔は、人気が高いルームを一つ選び、入ってみた。すると、その配信者は、なんと、江南大学三大美女の一人、秋元詩韻だった。

 秋元詩韻は江南大学では、まさに伝説の女性だ。容姿端麗で、才能豊かで、新入生の歓迎会で披露した官能的なダンスは、多くの男性の心を奪った。

 それ以来、彼女は常に話題の中心にいた。複数の大学のイケメンお金持ちたちと噂になったが、誰にも落とされることはなかった。高坂俊朗も、そのうちの一人だった。

 イケメンお金持ちたちは、彼女の気を引こうと、輸入食品やブランド物の服やバッグをプレゼントしたり、中には数百万円もするBMWのスポーツカーをプレゼントした者もいた。

 まさに達人だな。多くのイケメンお金持ちたちの間を自由に行き来し、誰にも簡単に手に入れさせない。それが、彼らの競争心と征服欲をさらに掻き立てるのだ。

 才能豊かで、しかも超美人だった。江南大学でこれほど多くの人から慕われているのだから、ライブ配信の人気も高いのは当然だった。すでに数千人が視聴していた。

 森岡翔がルームに入ってきたことで、ちょっとした騒ぎになった。何しろ、彼はついさっき、2000万円以上も貢ぎ、広告も10回以上も表示させていたのだ。しかも、アカウントレベルも100を超えていた。

 クジラライブでは、ギフトを贈ることでレベルアップすることができた。20万円貢ぐごとにレベルが1上がり、上限はなかった。レベルが高いほど、登場シーンが派手になったのだ。

 森岡翔は、たった今3440万円貢いだので、レベルは172になっていた。このルームでは最高レベルで、入室すると同時にランキング1位に躍り出た。2位は、まだ120レベルちょっとだった。

 「小さなマッチ棒さん、いらっしゃいませ!」

 秋元詩韻の声が聞こえた。森岡翔は面倒な挨拶もせずに、いきなりスーパードリームロケットを66個プレゼントした。

 (小さなマッチ棒が、配信者秋元ちゃんにスーパードリームロケットを1個贈りました)

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